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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2098号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 室田景幸

被控訴人(附帯控訴人) 比佐吉典

右訴訟代理人弁護士 増田弘

主文

原判決を次のように変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金二〇万円及び内金一〇万円に対する昭和四六年一月一日から、内金一〇万円に対する昭和四七年一月一日から各支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

被控訴人(附帯控訴人)その余の請求を棄却する。

控訴人(附帯被控訴人)のその余の控訴及び被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人)(以下控訴人という)代理人は「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人)(以下被控訴人という)代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人の敗訴部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対しさらに金四〇万円及びこれに対する昭和四二年六月三〇日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係≪省略≫

理由

一、当裁判所は当審における証拠調の結果を斟酌しさらに審究した結果、被控訴人の本訴請求は、主文第二項認容の限度において正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断するものであり、その理由は次のとおり附加訂正するほかは、原判決理由と同一であるからその説示を引用する(但し原判決一〇枚目裏末行の「岩手医学専問学校」とあるのを「岩手医学専門学校」と、同一七枚目裏一行目の「罰金三万円」とあるのを「罰金五万円」とそれぞれ訂正する)。

(一)  原判決一一枚目裏四行目の「第八号証まで」の次に「当審証人樫村一郎、同今橋一郎の各証言、当審における控訴人本人尋問の結果」を加える。

(二)  同一八枚目裏四行目から判決末尾までを後記の趣旨に訂正する。

(三)  右引用の原判決の認定判示するところによると、樫村和彦が左足切断手術により身障者となったのは、今橋一郎の自動車運転の過失による傷害行為と、控訴人の右傷害に対する対症療法の程度を過った医療行為とが競合して発生したものであって、しかも≪証拠省略≫をあわせれば、今橋一郎の右過失は、自動車運転者として前方を注視し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにかかわらず、これを怠ったことであり、樫村和彦のこうむった損害に対して基本的な責任があるものであり、控訴人はその不相当な医療処置によってその損害を拡大した関係にあるものであり、両者の右結果に対する寄与の度合は今橋一郎のそれを四とし、控訴人のそれを一と認めるのが相当である。すると樫村和彦が身障者になったことによって発生した損害について、共同不法行為者として負担すべき責任の割合は、共同不法行為者相互の内部関係においては今橋一郎及び被控訴人(両人も民法第七一五条の関係においていわゆる不真正連帯の関係にあるが、控訴人に対する関係においてはこれを一個の関係としてさしつかえない)が五分の四、控訴人が五分の一とするのを相当とする。

しかして共同不法行為者のうちの一人が被害者に対する全部の損害賠償のうち自己の責任の割合に相応する部分をこえて損害の賠償をすると、他の不法行為者に対し、その者の責任の割合に相応する部分について求償することができるものというべきところ、被控訴人は以下述べるとおり、樫村和彦に対し自己の責任割合に応ずる部分をこえ損害の賠償をしたので、不法行為者の一人である控訴人に対し、求償することができる。すなわち前記引用の原判決の認定するところによれば、昭和四二年五月二五日被控訴人と樫村和彦との間において、被控訴人は今橋一郎と連帯し、樫村和彦に対し本件交通事故による損害金として金一二〇万円の支払義務のあることを認め、内金五〇万円を和解の席上において支払い、残金七〇万円については、昭和四二年から同四六年まで毎年一二月末日かぎり金一〇万円あてを支払うこと、右金五〇万円をとどこおりなく支払ったときには、樫村和彦は残余の金二〇万円を放棄する旨の裁判上の和解が成立し、被控訴人は樫村和彦に対して、右和解の席上金五〇万円を支払ったほか、昭和四二年から同四六年まで毎年一二月末日かぎり、金一〇万円あて支払い≪証拠省略≫によれば、昭和四六年分は同年一二月一六日現在においてまだ支払われていなかったようであるけれども、被控訴人のそれまでの支払状況に照し、昭和四六年分もその後期日までには支払われたものと推認する)、その結果残余の金二〇万円は樫村和彦において放棄したものと認められる。すると被控訴人は自己の出捐により樫村和彦に対し、金一〇〇万円の損害の賠償をしたことになって、控訴人の責任割合に応ずる部分に相応する金二〇万円は、これを控訴人に求償することができるものといわなければならない。以上の認定によれば、被控訴人が自己の責任割合に応ずる割合を超える賠償をしたのは昭和四五年末に金一〇万円、昭和四六年末に金一〇万円の支払をしたものであるから、被控訴人としてはこの時にいたってはじめて右金員を控訴人に請求し得べく、未だその支払を終らない間に将来の請求としてこれを請求しなければならない特別の事情はこれを見出し得ない。控訴人が右損害賠償について裁判上の和解をし、その調書が債務名義として存在することは右結論を左右するものではない。故に控訴人としては被控訴人が前記各金一〇万円の支払を終った時以後遅滞におちいるものと解すべきである。

二、されば控訴人は被控訴人に対し、金二〇万円及び内金一〇万円に対する昭和四六年一月一日から、内金一〇万円に対する昭和四七年一月一日から各支払ずみまで、年五分の遅延損害金を支払う義務はあるが、その余の義務のないことが明らかである。

三、よってこれと異なる原判決を右の限度で変更し、その余の被控訴人の請求を棄却し、その余の本件控訴及び附帯控訴をいずれも理由のないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 田畑常彦 杉山克彦)

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